音楽・バンドマンガ 愛を感じるのはこれだ!
長いことギターを弾いてきた。 プロになろうと思ったりしたこともあるが、腕は中の上といったあたりだろうか。
ギター、バンドを始めたのは1986年頃、中学2年生の話だが、ギターも好きだったがマンガも好きで、今もやっぱりマンガを読んでいる。
当時、とても影響されたマンガに『TO-Y』という作品がある。
パンクバンドのボーカルをやっている主人公が芸能界に入って大暴れ、みたいな話だが、とにかく格好良かった。
バンドをやる、楽器を演奏する、ロック、パンク…それら全部が格好いいことだと感じることができた。
バンド・音楽マンガの難しさ
バンド、ロック、音楽をマンガで表現することは難しい。なぜなら、マンガからは音が聞こえないからだ。
音が最大のポイントとなる音楽、ロックをマンガで表現する際の手法については、『サルまん』が詳しい。
解決方法として、下記の4つが挙げられている。
この点ではクラシック音楽がテーマとなるマンガは有利だ。
なぜなら、クラシックなら曲名を出せば音については読者に音源を聞いてもらう、ということができるからだ。
そこで『のだめカンタービレ』や『4月は君の嘘』などの作品は主人公ほか、登場人物の音楽家としての腕前、芸術性、技量の描写に集中することができている。
しかし、ロックバンドをテーマにしたバンドの場合、大抵は実際には存在しない、作品世界の中だけのオリジナルな曲を演奏しているため、その音楽がどんなものなのか、それがどんな風に格好いいのかを読者に伝えなくてはいけないのだ。
『TO-Y』はロックの格好よさを絵で表現した。
前述したTO-Yが凄かったのは、格好良さを絵で伝えることに成功しているというところだ。
若干の擬声語(オノマトペ)は出てくるものの、歌詞や音符に頼ったりせず、さらに格好良さを伝えることを諦めてもいない。
純粋に絵の格好良さで音楽の格好良さを伝えている。
さらに言えばTO-Yが、彼の音楽がどう格好いいのか、セリフなどで説明するような野暮も多分なかったと思う。
これを実現しているのは作者・上條淳士先生の画力ということも勿論あるけれど、楽器や音楽、演奏についてのディティールだ。
そのディティールが正しいからこそ、演奏シーンが格好良く見え、読者それぞれにそれぞれの想像した音楽が聞こえている。
そして、確かなディティールは上條淳士先生が連載作品を書くにあたってリサーチした、という感じではなく、もともと詳しい、好きな分野なんだろうな、という感触を生んでいる。
筆者はバンドを今もやっていて、ギターを弾くわけだが、楽器をやっている人間が読んで恥ずかしい感じになる音楽マンガはいろいろな意味でディティールが甘く、音楽やバンドへの愛が足りないのではないか、と個人的に思っている。
ロックが好きすぎるマンガ
TO-Yはロック、音楽への愛がディティールを伴って溢れている作品だが、その他にもロックを愛する気持ちが溢れたマンガがある。
コータローまかりとおる!
まず、80年代の週刊少年マガジンを支えた格闘技マンガ『コータローまかりとおる!』だ。
この作品にはバンド編が数巻に渡って展開していて、天才ギタリスト、スティーブ・ヴァイをモデルにしたスティーブ・パイという、ギターでしゃべるギタリストが登場したりしている。
楽器のディティールも正確だし、マンガとしてもかなり面白く読むことができる作品だ。 ギターの楽しさ、バンドで演奏することの楽しさがしっかり表現されていて、作者はギターを自分でも弾ける人なんだろう(多分)。
3 THREE
90年代前半に連載されていた惣領冬実先生の『3 THREE』もディティールがしっかりしている名作だ。
楽器の絵、デティールが正確だから作品が素晴らしい、というつもりはないけれど、バンドを主題にしたマンガである以上、最低限のレベルは絵としても知識としてもクリアしているべきだと思うが、この作品はそのレベルは軽く超えた上でとても面白い。
基本的には少女マンガなので恋愛モノでもあるこの作品だが、バンドや音楽のほうが話の中心としてストーリーが進んでいく。
特攻の拓
週刊少年マガジンに連載されていたヤンキーマンガ『特攻の拓』はマンガとしての評価ははっきりいってどうでもいいが、原作者がロック好きらしく、バンドをやる話が出てくる。
筆者はちゃんと読んでいなかったので内容は全然憶えていないが、楽器というかギターをやっていないとわからない固有名詞がバンバン出てくる、という形で愛を溢れさせた。
音色と書いてトーンと読む
普通の読者はなんのことかまったく理解できないが、登場人物の音楽性、ギターの腕前を表現するのに機材の固有名詞を使う、という方法をとったわけだ。
マンガとして面白いエピソードかといわれると口ごもるが、好きで仕方がないギターについての話をやりたい、という無邪気さは不快なものではない。
音楽マンガ・バンドマンガとして認めたくない事例
ヒット作・BECKは作者の力量不足
細野不二彦のやっつけ仕事、それが『BLOW UP!』
音楽に対する愛情もなければ丁寧に調べてマンガにしよう、という気概もない不幸な事例がこれ。 細野不二彦先生がジャズに取り組んだマンガ、『BLOW UP!』はバブル期を舞台に若手ジャズマンが成長していくというマンガだが、びっくりするほどステレオタイプなお話で、本人は興味ないけど編集者が「ジャズでいきましょうよ、先生!」などと絵とマンガ的な文脈、作法には長けている細野不二彦先生に持ち込んだ企画なんだろう、と誰もが思う愛情のなさが際立っている。大事なところを活字で説明してしまう、というところはハロルド作石先生同様だが、楽器のディティールも相当甘いという点がダメ押しとなっている。 資料がなくて残念だが、ジャズギタリストが出てくる話でコマによってギタリストが左利きになっていたり、持っているギターがレスポールというジャズを少しでも知っている人なら作中に出さないと思われるギターだったり、演奏中の決めゴマがロックギタリスト、ジェフ・ベックの名盤『BLOW BY BLOW』のトレースだったりするというのはさすがにどうなんだろうか。プロの仕事として。
さらに上で紹介した作中の場面も本来はこの回で一番盛り上がるところだが、サックスとウッドベースが白抜きにしてある。
描くのが面倒臭かったんだろう、多分。
このジャケットを見ながら絵を描いちゃってるから、作中のギタリストが持っているギターもレスポールだったんだろう。
細野不二彦先生は島本和彦先生の『アオイホノオ』にも登場しているが、基本的にどのマンガも『BLOW UP!』と同じようなアプローチで描かれていると感じるつまらなさが特徴だ。
絵が上手くて器用、多分執筆スピードも早く、量産が可能。だからいろいろな企画が持ち込まれているんだろう。 マンガはつまらないけど。
ちゃんと向き合って描いたマンガはちゃんとおもしろい
おじさんになってから最近のマンガを目にすることは減ったけれど、以前よりもマンガの持つ情報量は増えていると感じる。